民主党副大統領候補ハリス ~闘うことを恐れぬ戦士らしい~

アメリカ大統領選について報じられるようになりましたね。民主党の大統領候補バイデンはその副大統領候補としてハリスという女性を指名しました。彼女はどのような人物でどのような活躍が期待されるのでしょうか。フォーリンポリシー誌上級特派員であるマイケルハーシュ氏の論稿から考えてみましょう。

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 選挙の荒波を乗り越えて、民主党の正副大統領候補コンビが運よくホワイトハウスに辿りついたとしよう。そのときカマラ・ハリス上院議員はどんな副大統領候補になるか。「黒人とインド人の血を引く女性として初」という点を除けば何の特徴もない退屈な副大統領になるだろうか。筆者はそうは思わない。

 なにしろ主役のジョー・バイデン自身、バラク・オバマの下で8年間、副大統領としては異例な影響力を行使してきた男。ハリスにも同等な役割を期待するとみてよい。

 もちろん互いの立場は異なる。大統領に就任した2009年1月当時のオバマは上院議員を1期務めただけで、外交経験はほとんどゼロ。当然のことながら外交面ではバイデンに頼ることが多かった。2010年に取材したとき、バイデンは筆者に言ったものだ。ここまで多くの政策について自分に采配を「任せてくれる」とは思わなかったと。

 就任後間もない時期のある会合で、オバマは不意に押し黙り、こう言ったという。「イラクのことはジョー(バイデン)が仕切る。ジョーは誰よりもイラクのことを知っている」。そして金融危機後のアメリカ経済を再建するための特別法についても、議会対策を「私に委ねた」とバイデンは語っている。

 もちろんオバマがバイデンの言いなりだったわけではない。アフガニスタン駐留米軍の大幅削減やウサマ・ビンラディン殺害(11年)ではバイデンの反対を押し切った。それでも再選を目指す12年の選挙戦でバイデンが言った通り、「執務室で最後まで残って大統領と二人きりになる」のはいつもバイデンだった。

 大統領と会う時間の長さで権力の重さが測られる首都ワシントンでは、これは重要な要素だ。当時の政権中枢にいた人々によれば、バイデンは国家安全保障チームとの会合が終わってからも大統領執務室に残り、次の経済チームが入室するまで二人きりで議論していたという。

 ただしバイデンとハリスがそこまでの信頼関係を築くには多少の時間が必要だろう。民主党の予備選に名乗りを上げていたハリスは当初、人種問題などでバイデンを厳しく批判していた。

 しかもハリスが経験の浅い1期目の上院議員であるのに対し、バイデンは半世紀近いキャリアを誇る議会政治の超ベテラン。それでも彼はハリスに、オバマ政権時代の自分が果たしたような役割を与えるだろうか。疑問は残るが、あるバイデン側近は筆者にメールで「疑問の余地なくイエス」だと伝えてきた。

 かつて上院外交委員会を率いていたバイデンは、こと外交に関する限り百戦錬磨の猛者だ。自分が大統領になれば、現職ドナルド・トランプがアメリカの同盟諸国や国際機関との関係に与えてきたダメージに修復するために尽力すると、一貫して主張している。トランプが離脱に踏み切ったイラン核合意や地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」についても、路線を転換して復帰を模索することだろう。

一方で、カリフォルニア州の司法長官だったハリスに期待されるのは国内問題、とりわけ刑事司法や警察制度の改革、アフリカ系アメリカ人コミュニティーや女性の声に耳を傾け、手を差し伸べる役割だ。ハリスの起用に当たって彼女の人種と性別が重要な要素の一つであったことは間違いない。

 「そういう役割分担の可能性は高いと思う」というのはかつてバイデンの側近だったマイケル・ホルツェル。「言わせてもらえば、ハリスは(ベテラン上院議員の)エリザベス・ウォーレンと並んで、万が一の場合に大統領の職務を遂行するのに最も適した人材だ。ハリスが外交面で一つか二つの担当を貰ってもおかしくない」

一方、クリントン政権の副大統領だった時期のアル・ゴアを支えたブレーンの一人で今はブルッキングス研究所にいるエイレン・カマークは、ハリスが「差別問題や警察改革に加えて議会対策でも相当な役割」を果たすだろうとみる。そもそもバイデンは自分と同じタイプの人間を選んだのであり、現にハリスは「穏健派で、外交にも精通している」からだ。

 もう一つの重要な要素がバイデンの年齢だ。77歳の彼はこれまで何度も、自分は次世代への「橋渡し役」に過ぎないと述べ、再選は望まないとさえ示唆してきた。つまり55歳のハリスの副大統領候補指名は、そのまま彼女を(早ければ22年の選挙で)民主党大統領候補の一番手に押し上げる意味を持つ。

 言うまでもないが、過去の副大統領は総じて影の薄い存在だった。上院の採決が賛否同数となった場合に最後の一票を投じる以外はほとんど憲法上の職責を持たない退屈な仕事。たいてい蚊帳の外で、閣議にも出ない。大統領が死んだ場合に代役を務めるのが最重要任務だ。

 初代副大統領のジョン・アダムズは後に、副大統領職は「人類が考え出した最も取るに足らない仕事」だと苦々しげに記している。フランクリン・ルーズベルトの最初の副大統領だったジョン・ガーナーも副大統領には「バケツ一杯の小便」ほどの価値もないと語っていた。要するに副大統領は、選挙でバランスよく票を集めるための道具であり、当選後は忘れられる存在であればよかった。

 だが最近は様子が違う。クリントン政権のゴアもジョージ・W・ブッシュ政権のディック・チェイニーも、そしてバイデン自身も相当な実権を握っていた。

 なかでも最強と評されたのがチェイニーだ。彼は大統領に03年のイラク侵攻を決断させるために手段を選ばなかったし、いわゆる「テロ容疑者」に対する強引な、のちに拷問と呼ばれることになる尋問手法も採用させた(ちなみにバイデンは、かつてチェイニーを「史上最も危険な副大統領」と評している)。

 副大統領の認知度が上がったのは、冷戦と「核のボタン」のせいでもある。毎日が一触即発の日々になったから、いざというとき大統領職を継ぐものにも臨戦態勢が求められるようになった。

 しかし、本当にバイデンは彼女に一定の政策権限を委ねるつもりだろうか。大いに疑問だとする声もある。経験に関する限り、ほとんどの分野でバイデンはハリスに抜き出ているからだ。

「ハリスは上院議員としての経験がとても浅い」とバイデンと親しいホルツェルは言う。「だから彼が重要な国内問題や議会対応を彼女に任せるとは考えにくい」。

 オバマとバイデンの関係は逆だった。新人上院議員だったオバマは、副大統領候補に選ぶ前からずっとバイデンに助言を求めていた。

 例えば08年春に、イラクの治安状況や駐留米軍についてデービット・ペトレアス米軍司令官を召喚した公聴会で、米軍撤退についての「期待値を引き下げる」よう、オバマ上院議員(当時)に助言したのはバイデンだった。

 この公聴会でオバマは「資源に限りがある状況では目標を控えめに設定しなければならない。私は何が何でも群を撤退させろと言っているのではない。しかるべき着地点を見出したいのだ」と発言し、メディアの称賛を浴びた。後にバイデンは筆者に、あの文言は一言一句、自分が提案したものだと明かしている。

 バイデンには上院議員としての長い経験(初当選はまだベトナム戦争の真っただ中だった)と、その中で築いてきた多くの人脈もある。そうであれば、議会対応でも彼自身が主導的な役割を果たすことになるとみていい。

 しかし今は、アメリカ社会が人種や性別で深く分断されている時代。アイルランド系白人のバイデンにはハリスの力を借りたい理由がある。まずは選挙戦で一人でも多くの黒人を投票所に連れてきてほしい。その後は人種や経済格差で引き裂かれた社会の傷を癒す役割を担ってほしい。

 だからこそ、バイデンはこうツイートした。

「自分がハリスをハリスを選んだのは、彼女が弱者のために闘う恐れを知らぬ戦士だからだ」と。













 
























 

2022 北海道公立高校入試分析チーム

分析を通じて来年の試験を予測 まずは北海道公立高校入試問題 次は国立高等専門学校(こうせん) オンライン家庭教師 北海道大学大学院法学研究科卒

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